音楽ナタリー Power Push - コドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」

前野健太

こんなキラーフレーズ、子供たちからもらっていいのかな

「子供が書いた台本をプロがよってたかって演劇にすることはできないだろうか?」という東京芸術劇場 芸術監督・野田秀樹の発案のもと、劇作・演出家の岩井秀人と森山未來、そしてシンガーソングライターの前野健太が創作するコドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」。昨年2016年夏にワークショップを行い、そこで子供たちが書いた数編の物語をベースに、3人が言葉と動きと音楽で作品を立ち上げる。年明けから稽古が始まり、2月18日の初日に向けていよいよ佳境を迎える稽古場で、子供たちの言葉に詩情を掻き立てられながら、歌い、踊り、舞台を駆け回る前野健太に話を聞いた。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 川野結李歌

子供の言葉に詩情を感じた

──年明けから2週間にわたり兵庫県城崎で滞在制作が行われ、最終日には観客を招いたワークインプログレス発表会が行われました。そろそろ作品の全貌は見えてきたところでしょうか?

前野健太

そうですね。城崎でまず最初に3人で即興的に動いてみたとき、ある程度面白いものができちゃったので、稽古ではずっとお互いの動きを見ながら、“見て待つ”訓練をやっていて。昨日は1本のロープを輪にしてその中に3人が入り、目いっぱい広がりながら誰も舞台から落ちないようにバランスを取る動きをやったんですけど、そういうことをしながら“待って”ると、あるときじわっと面白いものが生まれてきたりして。焦らないで待つ、ということがこのプロジェクトではすごく大事ですね。

──前野さんはこれまで、演劇の稽古に参加されたご経験は?

いや、本当にまったくないんですよ。岩井さんと未來さんは舞台をすごくたくさん経験されてて、阿吽の呼吸じゃないけど共通言語をすごく持っている感じがある。僕はそこが足りないというか、わからないことが多くて。子供が書いた言葉には反応できるんですけど、2人は舞台の奥行きとかここ(宙を指して)とかも全部使って動いてて、それが音楽とは違うなって。身体や紐を動かして詩情を震わせる。もちろんライブでステージに立つときは体を見せるってことを常に考えてはいるんですけど、ここまで舞台空間全体を意識したことはなかったですね。

──創作という点で、楽曲制作と似ている部分は?

前野健太

けっこう違うかな、曲を作るのは1人の作業ですし。ただ今回はオムニバスなので、どの順番で話を並べていくか、それを考える作業は似てるかもしれない。セットリストってライブの肝なので、本番の数日前からスタジオに入って、この曲はここだな、ここではこれを話そうとかってすごく考えるんです。ワークインプログレス発表会では5つのお話をやりましたが、そのときも「ようこそおじさんの世界へ」はどこにでも入るな、「虹色の馬」はここがしっくりくるとか考えましたね。

──岩井さんが、今回は稽古場で3人の主導権がくるくる代わると話していましたが、前野さんが主となって稽古した作品はありますか。

「ようこそおじさんの世界へ」ですね。すごい詩情を感じるんですよ。ワークインプログレスの前日に、城崎のスナックで6時間くらいですかね、3人で延々としゃべったんです。僕は「ようこそおじさんの世界へ」は歌心としてすでにすごいものがあるから、ただ「ようこそおじさんの世界へ」って言いながら2分程度舞台を歩いて、スッと消えるくらいでいいんじゃないかと言ったんですけど、2人はアイデアがいっぱいあるから、ああしたらこうしたらって意見が出て。でも僕はお酒の勢いもあって(笑)、「いやいや、これはどこかから聞こえてくる、詠み人知らずの歌のようなものなんだ!」ってこだわったら、未來さんに「それならもうマエケンが歌作ったほうが早いや」って投げられちゃって(笑)。で、ワークインプログレス当日の朝、「ようこそおじさんの世界へ」の歌詞と曲を作りました。結局発表会では歌いませんでしたが……。

──それはぜひ聞いてみたいです! もとの子供が書いたお話には、何かストーリーがあるんですか?

子供たちの言葉から生まれた前野の詞を書き留めたノート。

お話というか、紙に人っぽいシルエットが2つ描いてあって、その顔の1つに主人公なのか「主」って書いてあり、もう一方に吹き出しが付いてて「ようこそおじさんの世界へ」って、ただそれだけなんです。でもそれを見た瞬間、“これはとんでもないポエジーだ!”と感じたんですよね。(カバンから子供用の猫柄の学習帳を取り出し、ページをめくりながら)これ城崎の文房具屋さんで買ったんですけど、この「母さんだった」って詩も、まずこのフレーズが目に飛び込んできたんですね。そこからつながって勝手に「母さんだった / たしかに母さんだった / 兄を産んだ時から母さんだった / 父さんだった / たしかに父さんだった / 子供を産めなくても / 父さんだった」って歌詞を作っていって……。

──1つのフレーズから、バッと詞の世界が広がったんですね。

そう。そもそも今回、子供たちが書いた1フレーズから僕が歌を作るっていう、そういう仕事になるだろうなと思っていたんです。そうしたらいつの間にか、僕も歌ったり踊ったり、昨日はなんと未來さん振付で僕のソロダンスシーンまで(笑)。実際に本番で踊るかはわからないけど、僕もすでにたくさん歌を作っているし、稽古ではそれぞれがいろいろなアイデアを出していますね。

コドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」

コドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」

2017年2月18日(土)~3月12日(日)
東京都 東京芸術劇場 シアターウエスト

原案:こどもたち
つくってでる人:岩井秀人、森山未來、前野健太
そもそもこんな企画どうだろうと思った人:野田秀樹

チケット情報

東京芸術劇場ボックスオフィス
チケット好評発売中

前野健太(マエノケンタ)

1979年生まれ、埼玉県出身。シンガーソングライター。2007年に自主レーベルよりアルバム「ロマンスカー」をリリースし、デビュー。2009年、ライブドキュメンタリー映画「ライブテープ」(監督:松江哲明)で主演を務める。同作は第22回東京国際映画祭の「ある視点部門」でグランプリを受賞。2011年にも同監督の映画「トーキョードリフター」で主演を務める。同年、第14回みうらじゅん賞を受賞。近年はFUJI ROCK FESTIVALをはじめ大型フェスへの出演や、岡田利規作・演出「わかったさんのクッキー」への楽曲提供、文芸誌でのエッセイ連載、小説執筆など、活動の幅を広げている。アルバム最新作はジム・オルークをプロデューサーに招いた「ハッピーランチ」(2013年)。2014年にはライブ盤、2015年にはCDブック「今の時代がいちばんいいよ」を発表。2016年末に主演を務めた「変態だ」(企画・原作:みうらじゅん、監督:安斎肇)が公開された。